線形代数を使った解析

まずは有限要素法から

本稿は無線通信に関わる記事を主としていますが、閑話休題、有限要素法の紹介をして構造計算・応力解析の流れを説明します。 構造計算や応力解析は、通信のハード部分を設計したり、製作したりすることを考えると通信と無縁のものではないでしょう。 また無線通信とは少し畑の違う有限要素法を例に線形代数を使った解析手法を、「代数学」というアプローチで無線通信の解析へ 一気に導入して行きます。

有限要素法は連続体を有限要素と呼ばれる領域(「メッシュ(mesh)」と呼ぶ)に分割して表現します。 連続体は平面の2次元体でも、立体の3次元体でも理論的には有限要素法を適用することが可能ですが、 構造計算や応力解析の分野には断面形状をもとに圧縮応力(あるいは引張応力)に対する強度や梁のたわみ等を解析する手法があるので、 断面形状によるアプローチと対比しながら、有限要素法による解析をすすめていくことが考えやすいでしょう。 そのため例題では梁の断面を想定し、例題の断面をメッシュに分割し有限要素を適用していく流れを説明します。

おおまかな流れは次の通りで、視覚的なイメージは図を参照して下さい。

  1. 断面形状を設定する
  2. 梁の支点と拘束条件を設定する
  3. 断面形状をメッシュに分割する
  4. 断面形状のメッシュを細かくする
  5. 荷重の方向をもとに各要素にかかる応力を計算する
断面形状、梁の支点や拘束条件の設定は、力学者(あるいは設計者)の勘どころであり、メッシュ分割後の有限要素法の計算の詳細は割愛します。 線形代数の出番は断面形状をメッシュ分割し、それを必要に応じて細かくしていく流れにあります。

図のようにメッシュ分割を行なっていく際は、頂点をノードとし、メッシュの辺をエッジとして行列をつくっていきます。 エッジには長さの属性を負荷すれば、エッジの中点にノードを設定し、メッシュをコンピューター計算にて細かくしていくことができます。 メッシュ分割が適切かどうかは力学者(あるいは設計者)の経験ですが、分割手法をある程度ルール化すれば、 あとは自動計算で解析作業をすすめることができます。

さてここでノードとエッジの概念を無線通信に適用していきます。ノードに無線局、エッジに無線局間の距離を設定し、 ある地点から電波を送信します。ノードに設定された無線局の電界強度を測り、各ノードの電界強度と距離をもとに電界強度の分布がわかります。 当然、無線局間の距離が長すぎると電界強度の分布の精度は高いとは言えないでしょう。そこで有限要素法と同じ手順でメッシュを分割し、 再度、電界強度の分布を計算します。このときノードとエッジの関係を行列で表現しておくと有限要素法と同じようなロジック・手順で解析が行えます。

これはすごいことです。さらに線形代数の世界では行列はAとかBとかの符号で記述し、演算を定義して理論を組み立てています。 巨大な行列を一文字で表し、人は机上で紙に式を書きながら解析手順を考えます。そして巨大な行列を使った演算は全部コンピュータに やってもらえばよいのです。

ここでは有限要素法と無線通信の解析を紹介しましたが、他にも利用できると思いませんか? 実際にノードとエッジを使って、工程管理やジョブスケジュールの分野ではクリティカルパス計算を行ったり、 気象の世界では温度の分布をシュミレートしたりできます。

代数学というと味も素っ気のない響きがしますが、システムをつくっていく上では強力なツールとなります。 if分岐やloopをたくさん書くのではなく、線形代数を使って大規模演算をスクリプトで表現できるようになれば、 抜群に仕事がはかどるはずです。

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