GPSとRNAV航法

GNSSの誕生からGore Commission(1996)まで

GNSS(global navigation satellite system, 全地球的航法衛星システム)はICAOにより定義された衛星航法システムです。 私たちが普段目にしているGPSはGNSSの一種であり、アメリカによって運用されているシステムです。 GNSSにはアメリカのGPSの他にロシアが運用するGLONASS、ヨーロッパが運用しているGALILEOがあります。 GPSはアメリカ国防省(DOD:The Department of Defence)が管理・運用しているシステムですが、 民間にも広く開放されているため、船舶や航空の分野をはじめ、車載GPSや最近では携帯端末にまでGPS受信機が組み込まれ、 街を行き交う人々のナビゲートまでしてくれるようになっています。 GPSは三次元測位システムであるため航空の分野での性能の発揮の如何がシステムの性能・限界の評価の鍵になると言えます。 ところが、結論から述べるとGPSは単独では航空機の航法に必要な要件(完全性、精度、利用可能性、利用の継続性)のすべてを 満足するレベルでは提供されていないため、航法に利用する際には注意が必要であるとされており、航空法上はVOR/DME,LORAN等の ように航空保安無線施設に含まれていません。なぜそのようになっているかを技術的・システム的な見地から考察することが 本章の主題でありますが、その前に歴史的な背景や経緯を簡単に紹介したいと思います。

CNS/ATMプラン

CNS/ATMプランは、C:Communication、N:Navigation、S:Surveillance/ ATM: Air Traffic Managementについて、HF通信や無線航法援助施設など地上からの支援に基づく従来型のシステムにかわり、航法衛星や通信衛星を利用した新たな航空交通システムを世界的規模で整備し、その整備されたシステムをもとに、国を超えた航空交通管理を行おうとする計画であり、1991年にICAOが決定したものです。

CNS/ATMプランの概念自体は、1983年にICAOに設置された「次世代航空システム特別委員会((FANS委員会)」により取りまとめられたFANS構想がルーツとなっています。FANS構想では、通信(Communication)、航法(Navigation)、及び監視(Surveillance)にそれぞれ、静止衛星による航空移動衛星通信(AMSS)、全地球的航法衛星システム(GNSS)及び自動位置情報伝送・監視システム(ADS)などの新技術を導入することにより、航空交通管理(ATM)の実現を目指していることから、その頭文字をとってCNS/ATMプランとしてシステム構築がすすめられています。日本でも1994年より国土交通省がCNS/ATMプランにもとづいたシステム構築をすすめています。(国土交通省「新CNS・ATM構想の概要」)

従来型の無線航法援助施設(NDBやVORなど)との比較

NDB(無指向性無線標識,Non Directional Beacon)やVOR(超短波全方向式無線標識施設,VHF Omnidirectional Range)は三角測量の考え方を用いて2つの標識(NDB局,VOR局)からの角度で機位を求めることができます。 GNSSシステムも測位の考え方は同じで標識がGNSS衛星となって、さらに高度情報も得ることができるようになりましたが、測位という点では大きな違いはありません。 航法の観点(特に計器飛行方式)ではVORを使用した航法に比べて、GNSSを使用した航法が経済的な経路を飛行できるようになります。VORを使用した航法の場合は地上のVOR局がWayPointとなるのに対して、GNSSを用いたRNAV航法ではWayPointに 任意の地点を設定することができます。VOR航法については、空港付近でのDEPARTUREやAPPROACHしか経験がないのですが、VOR航法をする場合のひとつのチェックポイントでHIGH STATIONを確認することになります。 航法の三要素(1)位置、(2)針路、(3)時間のうち位置を把握するためにHIGH STATIONの確認は重要です。具体的にはVOR計器の電波が入っていた状態から電波がOFFになった地点がHIGH STATIONとなります。 つまりVORを使った航法の場合はVOR上を飛ばないと目的地には行けないことになり、必ずしも出発地から目的地までの直線経路(最短経路)を飛行することができません。ところがRNAV航法の場合はWayPointを任意の位置に設定できるため、 出発地から目的地までの最短経路での飛行が可能となり経済的です。

次の図のような航法原理になります。(国土交通省のサイト(RNAV運航方式)からの引用です。)

筆者がこの図を見た時は、「チャート(地図)に出発地から目的地まで直線引いて、偏流角を考慮し針路を修正しながら飛べばいいのでは?」と思ったのですが、 天気がよくて視界が良好(いわゆるVMC=有視界気象状態)、そして地紋が確認できる(高度が比較的低い、また地紋を熟知している)場合はそれも可能ですが、 無線航法を使うケースは天気も視界も悪い状態で、地紋も確認できない(高度が高くて地上が見えない)ことが前提条件となっているようです。 また技術革新により最短経路が飛べるようになったとの説明されている一方で、設備面では従来のVORにGPSを追加することが要件となっているように読み取れます。 GPS設備の追加投資効果は経済的な経路を飛び飛行時間を短縮できることですが、保守費として、VORは従来通り保守し、GPSが追加されることを考えると、 それでも効果がでるのか否かは導入にあたっての判断になるでしょう。 一方、従来のVORに加えてGPSがあれば相互が代替(alternative)できるので信頼性が向上するとも考えられますが、その真相を次項で考えてみたいと思います。

GPSに関連する衛星航法補強システム

まず日本の航空法(航空法施行規則第97条)ではVORは航空保安無線施設に含まれるのに対して、GPSは含まれていません。 それはGPS単独では、航空機の航法に必要な要件(完全性/integrity、精度/accuracy、利用可能性/availability、利用の継続性/continuity)のすべてを満足するレベルでは提供されていないためです。 GPSを使えば、地球上どこでも高い精度で測位が可能となりますが、電離層と対流圏における伝搬速度の遅延やマルチパスの問題等の電波伝搬経路の本質的な問題により、サービスの利用・継続性に影響を与えるため、 すべての飛行フェーズ(出発、巡航、進入、着陸)にわたってGPSを使用するためにはGPS補強信号が必要になります。そしてGPS補強信号システムについては、VORと同様にSBAS(衛星航法補助施設)として航空保安無線施設に含まれます。 結局、GPSを使って運航するためには、GPSに加えてSBAS受信機を航空機に設置する必要があります。SBASとしては米国FAAが管理・運用するWAAS(wide area augmentation system)や日本の航空局が管理・運営するMSAS(MTSAT satellite-based augmention system)があります。

これからのGNSSとRNAV航法

RNAV航法を導入していくにあたり、VOR局の縮退がすすめられていますが、VORがすべてRNAVにとって代わるという方針は打ち出されていないようです。 新CNS・ATM構想にもとづいてRNAV導入は2000年あたりから2020年までにかけて、本稿を執筆中の2014年にはSIDやApproachとしてRNAV Departure/Approachがすでに導入されています。 一方でVORによるSIDやApproachも残っており、RNAV適合機以外はVORで出発、進入を行えるようになっているのが、現在の空域の状況でしょう。 GPSは電波伝搬の経路により本質的に精度の誤差を免れないシステムになっていますが、VORより精度は高く、経済性も確保できる点では、今後のシステムや航空路・飛行基準の整備は今度の動向を追っていく必要があります。

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